おまえは何故このことに気付けなかった?
國を離れたおまえを屠ることがあまりにも私にとってたやすいことであるということに。
或いは気付いていて、それでもおまえはおまえの誇りを取ったのだろうか。確かめることも叶わない。
嗚呼、私はそういうおまえのことが愛おしかった。そんなことにも今更気付く。
私はおまえをきっと愛していた。手放すことが身を切り裂く想いであるほどに。
飛虎。
名を呼ぼうともう返事はない。
飛虎。
己の腕のうちにあるその身体はもう熱も失われて。
うなだれるその肢体はもはや肉塊と呼びうるものだろう。
手元から失われてようやく私は知った。私はおまえを己だけのものにしたかったのだと。
皮肉だろうか? おまえをこうする大義名分を得てようやく辿り着いた結末がこの有様だ。
おまえの血潮をこの身に浴びたその瞬間がはじまりであり終焉(おわり)であった。
それからおまえのいのちの灯が消えゆくまでの時は私にとって永遠のようであった。
飛虎、私はおまえをきっと愛していた。
最期まで口にすることもなかったが。おまえならそのことも知っていたのかもしれない。
私はこの想いを抱いて何時か地獄へ堕ちてゆこう。それでもいい。それでいい。
何百年先か何千年先か、その日を私は待ち遠くすら思うのだろう。
叶うならばおまえを抱いたまま引きずり落してしまいたいほどだが叶うまい。おまえに似つかわしくないことは私が一番よく知っている。
――それでもいいと思った。
今このことを知る者はひとりたりともいない。あの張奎ですら知らぬことだ。
まるで世界には私と飛虎、ふたりきりのような気分だった。そう思うと不思議なほど高揚した。
この気分のまま眠りに付きたいほどに。
今まで見たどの夢よりも幸福な悪夢を見るだろう。
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