無題のぶんひこ

そういった曖昧な関係に身を任せるのも悪くないかもしれない。
今この瞬間、この平和な季節にはそう想うことも赦されるような気がした。
どれだけ失われやすいものだと知っていてもそう思う己を否定はできなかった。
本当にらしくもない。

こういう私の何処か地に足のつかない何かが、何れ私を搔き乱すのだろうという想像をしていながらそれを真正面から認めてしまうことに抗った。
何が私をそうさせるのか何時か知る日がくるのだろうか。

***

いつだって俺たちには明日なんてなかったのかもしれない。
ずっとこうやって世界を導く何かに定められた道を歩んでいたんだろうか。
俺たちの生きたあの瞬間瞬間が何度目のそれなのかだって曖昧で、それでもこれまで歩んできた日々は、育んできた國は、俺たちを取り囲むものすべてが、確かに在ったしそれは間違いなく俺たちのものだ。
……俺たちは今ようやく本当の俺たちの道を歩むことができる岐路に立ったんだろう。
得てきたものも失ってきたものも数えきれないほど抱えている俺たちは、それでも歩んできた道を踏み固めるような心持でこれから先を生きる。
生きているのか死んでいるのかもよくわかんねーけど、それはそれだ。
すべてを背負っているというその事実がただ俺たちの背中を押す。

 

 

 

聞仲。
俺はおまえをきっと愛していたよ。

聞仲。
おまえの言う”それ“のことはまだ俺には解らないけど。

だけどさ、俺はおまえのこと知りたいってずっと思っていたんだ。
思っていて、怖くて聞けなかった。
ひとたび尋ねようとすれば唇がふるえた。足が床に張り付けられたように動かなかった。呼吸も止まってしまうような気分だった。

今なら聞けるだろうか。

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